2013年8月の整体


今年は 何年かぶりのタイ・バンコクで
10日間ほど 連日の灼熱のなか タイ古式のマッサージを受ける日が続き 
のべにすると120人ほどの タイ人の技術に自信のあるというマッサージ師群の施術を経験した
短期間でこれだけ連日の施術をうけると
逆に疲労が蓄積しそうだが
バンコクの活気みなぎる街並みのせいか、 タイ料理のおいしさのせいか
からだは 絶好調で毎日が快適であった


もちろん整体の仕事をかねてのことであったが
こうした 集中的に間断なく施術を受ける経験は 思いがけない出来事や 新鮮な事象に満ち
いくたの示唆や啓示をうけ 収穫が多かった
今月はその報告をしたい

7月30日 名古屋からバンコクに入ると ちょうどタイは雨季で、バンコクの街全体の空気はいつも軽い雨滴を含んでいるようであった。
強い太陽の日ざしは終日つづくが 突然急変しやってくる驟雨は一日のうち必ず一度はあり それがこうした雨滴の感覚の原因かもしれなかった

バンコクに着くや さっそくタイ古式の伝統的なマッサージを受ける日々がはじまった

タイの古式マッサージの特色は
施術する側の五体をたくみにつかって 圧迫と弛緩をくりかえし
深層の筋肉群にまで到達するように 緩やかなテンポとリズムで肉薄していくマッサージで
とくに施術者の肘と膝の使い方がうまく 受ける側は、体重移動と力の配分がなんともいえないここちよさとなる
したがって いわゆる指圧のような 手先による 点の圧迫ではなく 施術する側の全体重を、面で伝えるやり方となる
それによって かなり小柄で非力そうにみえる女性であっても
おどろくほどのパワーが受ける側の伝達される
そうした意外性が またタイ古式マッサージの魅力の一つであるかもしれない
なかには アクロバティカルな体位で連続する技法もあり 時に意表をつかれ 温存されていた部位が突然めざめる
またマッサージ師によっては あえて痛みを意識的に与える技法をとるものもあり
そんな時は 痛みと快楽の振幅は はげしく ドラマ性がたかい


したがって マッサージの進行につれ 術者もそれを受ける側も からだ対からだのゆるやかな格闘技の展開となる錯覚におちいる
それほど 術者の力が 受けるものの芯奥に達してくる瞬間があるのである
こうした 術者と受ける側とが混然一体となる状態が タイでいう慈しみの瞬間なのかもしれない
もちろん こうした瞬間は他の施術体系でも ときおり経験するが タイ古式マッサージはそうしたものをかなり意図的につくりだすものかもしれない

当然 術者のレベルによっては こうした瞬間をへないまま施術は終了してしまうが それはひとえに個人の経験の問題であろう
バンコク初日は 結局4人から施術をうけたが
年齢の世代ごとに見事に分散したので その経験の差が顕著で面白かった
20代 30代 40代 50代 いずれも女性で
やはり 50代のマッサージ師が一番に練達の技を披露し 
膝と肘の動きで 私の深層筋の一本一本に分け入るように侵攻してくるのは圧巻であった

2日目は スパランドのような戸建のサロンを4軒まわり タイ式のオイルマッサージを連続してうけた
オイルマッサージそのものは気持ちのよいもので オイル成分とともに身体の毒素が排出していく気分になり爽快であるが
この日 一日中幾人の手でうけたオイルマッサージはとりたてて個性はなく 特筆すべきものがなかった
こちらの期待で タイ古式マッサージの延長上にオイルマッサージがあるのではとの思い込みがあり
それは裏切られた形になったのであるが もっと工夫によりタイらしいオイルマッサージを開発してもいいのではとの感が残ったのである


起源をたどれば タイ古式マッサージはインドのアイユルベーダを出発点とした医療であり
古来より 医療行為としてさまざまな手法が記録されている
現在では タイ古式マッサージは 指圧・肘圧・膝圧によってストレッチを中心にするもの
いまひとつがひとつが 薬草やハーブやアロマオイルを使ったマッサージの
大きく2つの流れに集約されてきている
残念なのは ハーブ・アロマ・マッサージが単にリラクゼーションどまりのレベルで終始していることで
かつてハーブ・アロマ・マッサージが治療として行われていたような古典的な典雅を探求しているタイ人はいないのだろうか?
というのが実は今回の期待のひとつである。

ただし ハーブ・アロマ王国であるタイで ハーブ・アロマををふんだんに使い
その香気によって さらに癒しの霊験をあらたかになってくる濃厚な気配のなかで
長時間 オイルにまみれるのも ひとつの南国の逸楽といえる
とくに バンコクの町中のこうした施設よりも バンコク郊外のこうした施設は空間設計が豪華で 余裕のあるスペースとなっており
オイルによるボディケア三昧に身をおくとすれば バンコク郊外のこうしたゆとりのある清潔な施設を薦めたい
すくなくとも 熱帯の怠惰が五体の五指に十分にゆきわたるであろう

3日目は バンコクの市街地の中心 スクンビットを基点にしてマッサージをおこなう師達に次々と施術をうけた
この日は総勢30数名を経験する
それぞれの得意とするものや 特異性を知るのが目的なので 15分〜30分もあればその力量は判明してしまう
同行する タイ人の通訳氏もてなれたもので こちらの意図が即妙でわかっているので 流れるように次々と的確な指示を与える
が 施術を行う方は
こうした短時間の施術が なれていないので戸惑いと緊張はかくせない
本来がタイ古式マッサージは たっぷり時間をかけてゆっくりほぐしていく性質のものなので
その時間内でいかに術者が施術の演出し展開していくかが 受ける側からすれば醍醐味といえる
そこで こうしたやりかたに逡巡するのももっともであろうが

問題は 急所をつく という本来ヒトのからだに対する施術のポイントを体得しているのかどうかであるので
こうした めまぐるしいやりかたもその技量の深さが瞬時に推量できて こちらからすると たのしいひとときである
また 熟練は 2時間の術も 凝縮し数分でその2時間の流れを感じさせることができてしまう
ともいえる
実際 その日 そうした目を見張るような師はみあたらなかたが
様々な工夫をこらし からだを巧みにつかって身体をぶつかりあわせる術をの使い手を数人記録した

そもそもタイ古式マッサージの基本は
術者の自身の指・手のひら・肘・膝・かかと等をひとつの支点として
施術を受ける者の身体にその支点を乗せ 様々な角度に骨格・筋肉を伸ばしたりちぢめたりしてゆく
であるから まずその支点の設定が巧みであることが重要な要素である
この日 特にこうした支点の設定の熟練をみた

4日目は タイ古式マッサージの総本山といわれている 寺院ワットポーへいく
バンコク市内に700の寺院があり その最古の寺がワットポーであり タイ古式マッサージはここから発祥した

かつて 日本もそうであったように寺院は古代の医療の場であった
タイ古式マッサージの歴史はブッダ存命のころがもともとの起源のようだが
その後 それを理論化し書面化し集大成をしてまとめあげていったのは すべてこのワットポーの僧侶たちであった
ワットポーに残る壁画には 指圧の方法が描かれ
寺院内に残された鋳造には かつての仏教隠者の編み出した体操の手法がある
さらにタイ王室の宮廷に残る古代よりのタイ伝統医療のテキスト
これらの集大成により タイ古式マッサージがかたちつくられてきたという

とくに 1970年代以降は 伝統医学をみなおす世界的な医療における潮流に乗って
タイ政府も積極的に タイ古式マッサージの推進をはかってきたこともあり
ワットポーは タイ古式マッサージの象徴の色彩をより濃く喧伝するところとなった
もちろん 観光資源的な側面もあるが
ワットポーに限らず
1970年代以降は タイの全土で 伝統医療の復興運動がおき タイマッサージはそれぞれの土着性をおびながら
いろんな形でさらに発展をとげてきた

さて ワットポーであるが
 タイ古式マッサージのスクールが従属してあり タイ人のみならず海外からもマッサージを学習できる体制をとっている
もちろん日本からも受講する人が増えている様である

またこの寺院の中で 一般の人もマッサージが受けられるような塩梅となっている
この日も ワットポーの伽藍のなかも世界中からの旅行者でごったがえしていたが
タイ古式の本場マッサージをうけれるところも参拝がてらの人の波で黒山のひとだかりであった
ほぼ100名はくだらない 白衣マッサージ師達がおしあいへしあいしながら 狭いベッドで施術をおこなっている
事前に最良の師を選別しておいてもらっってあったので さっそくいろいろなコースを次々と経験した


1 伝統的タイ古式マッサージ
2 伝統的足のみマッサージ
3 ハーブマッサージ
4 タイ医療マッサージセラピィ
5 フェイシャルマッサージ


すべてのコースを2名ずつのマッサージ師に施術をうける 相違や個性を浮き彫にするため 各コースで男女一名ずつとした
総じていえば やはりそれなりに皆手馴れていてうまかった
とくに感じたのは そのテンポとリズムとスピードで これらは一番それぞれの個性を感じたところである
総体的に タイ古式マッサージはこうしたものは かなり緩慢としてゆったりとすすむのだが
そのなかでも それぞれの独特なテンポやリズムやスピードがあり それが微妙にひとりひとりかわっている
もともとが 手順とかやり方はかなり一定で教科書的に統一されており
それであるからこそ 同じようなやり方や手順のなかでテンポやリズムやスピードの微妙な違いが際立つのかもしれない
特に今回は 男女の違いが際立つように手配したので
同じコースで男女の相違が会得でき その比較は興味深かった。

ワットポー自体が 学校的な意味合いもあって
忠実な手順と セン という身体のエネルギィ―ラインに沿っての施術流れに終始しているために
個性的な 破調や格外の手法は経験するに至らなかったが
タイ古式マッサージの 死守しようとする伝統的なエッセンスはわかりやすい

なお ワットポーにおいて今回経験した
ハーブ、 医療、 フェイシャル、のマッサージについての内容についての評価は
伝統的タイ古式マッサージの独自性が こうしたものに反映されておらず
一言でいえば まだまだ熟成されず独自性のレベルまで到達していない
 今後の一段のこうした分野での 他のマッサージのレベルを研究すべきであるといえる

その後
こうした感じで ほぼ10日間をすごしたのであるが
総じていうならば
タイ古式マッサージの力点は 下肢と上肢 つまりでん部以下の足まで と 肩以下の手まで の部位にあり
それ以外の 頭部と体幹 は 施術の対象として 相対的にいえば 力点が置かれていない
そういう 感想をうけた
これは その後 バンコクでうけたマッサージのすべてについてもいえることで
下肢と上肢はかなり 創意工夫がこらされじっくりおこなうが
頭部と体幹は あっさりしている 言葉を変えていえば 追及性が浅いといってもよい
どうしてそうなのか? あるいは今回の経験した師達がたまたまそうだっただけなのか?
検証に値することであろう

日本で身体の不調の主訴のほとんどが 腰痛と肩こりといっていいいが
じつは 体幹の施術が習熟していないと
この腰痛と肩こりの対応が徹底的にできない
その意味で タイ古式マッサージの弱点が このあたりにあるという印象をもったのである


この次は
体幹や頭部を独特なタイの方式で追及する施術を受けることができれば・・・ と
こんな期待で 今回はバンコクを後にした